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2016年11月13日 (日)

「音楽入門」(伊福部昭、角川文庫)

「音楽入門」(伊福部昭、角川文庫)

初版は昭和26年(1952年)。これはLPレコードが発売された年だそうだ。

この本は驚きだ。単なる商業作曲家のイメージであった伊福部昭にこんな著作があったとは。芥川也寸志著「音楽の基礎」(岩波新書)に挫折した人間にも面白く読めました。

シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語れり」をサティの「ジムノペティ」と比較している箇所。
「ジムノペティ」が傑作であるのに反して「シュトラウスの作品は題名だけが意味ありげで、内容は口にするのも腹立たしいほどのものなのです。」
なるほど。やはりツァラトストラにはこういう評価がありえるか。
以前、はじめてHNK-FMで「ツァラトストラ」を聞いたとき「何、この曲?」と思いましたね。冒頭の有名なオープニングの後は山も谷もないような曲が淡々と続く感じで。
かといって、この曲を駄作と断じることもできませんでした。自分には理解できないけど世間では評価されている曲なんだろうな、ぐらいに考えていました。

「ツァラトストラ」のイメージを決定しているファクタとしてニーチェの著作の他にもう一つ、映画「2001年 宇宙の旅」があることは間違いない。
あの映画の中でのこの曲の使い方について伊福部氏にこそ意見を聞きたいところだが、この映画については何も触れていません。(初版は映画の前だから当然ですが。)

もう一つ、この曲には冨田勲氏のシンセサイザー演奏もありました。(実家にあるがLPなので聴くことができません)
どの演奏も例の冒頭の部分しか取り上げられていないことからも、この曲の全体の完成度が判る気がします。

そういえば、この本では揚げていないがシュトラウスには「ティル オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」という作品があります。これもあの昔話とどんな関係があるのかわからなかった。

モンテヴェルディ「オルフェオ」。近世の音楽はここから始まった。
オネゲル「パシフィック231」。機械主義。これも冨田勲氏の演奏がありました。30年以上前に聴いたきりだが、冨田版を聴く限り違和感みたいなこのは無かったと思う。
ストラビンスキー「オルフェ」。古代旋法の復活。
ワグナー「トリスタンとイゾルデ」。ロマン主義の終末。
エリック・サティ。ロマン主義の限界を見抜く。
ハインリッヒ・シュッツ、ラインハルト・カイザー。偉大、荘厳、哲学的思索等が音楽に付加されるのは、これらの音楽家から始まる。しかしその音楽上のイディオムはドイツ固有のものではない(この理解は意外である)。音楽上のイディオムとは何かがわからない。
シュッツとカイザーを引き継いだバッハとヘンデル、ウイーン古典派、ロマン派。

現代音楽のいろいろな流れ。
印象主義。ドビュッシー「沈める伽藍」「水の反映」「雨の庭」「海」旋律線が無い。
機械主義。
多調主義。ダリウス・ミヨー、ベラ・バルトーク
無調主義。
微分音階主義。
線対位主義。この部分は特に難解。シェーンベルク、ストラビンスキー
古代主義。古代旋法、フリギアの復活。
新古典主義。
ラグ音楽。ここで書いているユダヤ系作曲家とはだれ?
 ストラビンスキー「兵士の物語」「三楽章の交響曲」

現代の音楽はハイ・ブロウとロウ・ブロウに分裂してしまい、民衆と音楽家がともに楽しめるミドルブロウの音楽を失った。これは音楽だけではなく他の芸術部門にも見られる時代の特色。

現代の生活において常に音楽が鳴り響いている状況への警鐘。「音楽を精神の糧として受け取ることができなくなる。」
「ながら聴き」というのは現代的な音楽の聴き方であって否定することもないが、音楽を聴く集中力が訓練されないのは自分の経験からしても確かです。

あとがきにおいて、音楽を音響化するためには演奏という不可解な世界を通過しなければならないが、これについては触れなかった、とある。
確かに演奏者の質の違いが鑑賞者にとってどのような意味・意義があるのかがよくわからないのだが、伊福部氏の見解を聞きたかったところです。
世間的に名の通った演奏者でなくても、ローカルな演奏者による演奏でも十分聴けるではないか、というのは日頃思っていることで、「全席自由席」というコンサートによく行きます。
いわゆる一流の演奏者をやたら持ち上げたがる・ありがたがるのも現代の特色の一つだろう。

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