「戦艦大和 生還者たちの証言から」(栗原俊雄、2007年、岩波新書)
戦艦大和の生還者に取材したレポートは過去にいくつも発表されているのではと想像されるが、本書はおそらくその最後になるかもしれない。
後になるほど取材できる生還者や遺族などの関係者は少なくなっていき、また取材できたとしても記憶があいまいになっていくはずで、その中で本書の意義は何だろうか。
おそらく本書はもともと新聞記事として書かれたこと自体に意義があるのでしょうね。それも単に過去の取材記事を紹介するだけで終わるのではなく、少数ではあっても生還者に取材することに意義があるのでしょう。多くの新聞読者がこの記事によって戦艦大和とその乗員の運命を初めて知ったはずです。
生還者自身による著作として最も有名な吉田満著「戦艦大和の最期」には、吉田氏の実体験ではなく伝聞情報にもとづいて書かれたとされている部分があって、その部分が真実かどうかの論争が2005年にもなってあったことを本書で知った。
これほどクリティカルな部分ではないにせよ、大和は最後の戦闘において主砲を撃ったのかどうか、を巡っても生還者の間で記憶が分かれているらしい。
個人的には吉田満氏の記述を巡って他の生存者がどのように考えているかを取材してほしかった点がもう一つありますね。
大和沈没後、他艦による生存者の救出作業の間、米国の偵察機が上空を旋回することで他の米機が攻撃することを妨げた、という記述(講談社文芸文庫版156ページ)。
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